2021年7月16日金曜日
【技術読み物】歴代プリウスの電気システム(その2)
※ 本稿は【技術読み物】歴代プリウスの電気システム(その1)の続き。
2.2 各ハイブリッドシステムの概要
<2.2.1 シリーズハイブリッドシステム>
本項では表2.1〜2.3にて記載していた各ハイブリッド方式について図説を行う。
図2.2にシリーズハイブリッドシステムの概念図を示す。この方式は車両駆動を全て電気モータに担わせている。従って、バッテリから車両駆動までのエネルギー伝達ラインを見てみると、電気自動車と全く同じ機構となっている。しかしながら、電気自動車ではバッテリへのエネルギー供給を外部電力から充電器を介して行われるのに対して、このシリーズハイブリッドシステムではエンジン動力を用いて発電機を駆動させることにより発電を行い、その電力をコンバータを介して給電することで実現している。このシステムの利点としては、以下の項目が挙げられる。
1)車両駆動制御が簡易
2)高価であるバッテリを小型化可能
3)エンジンの高効率駆動を持続可能
ここで1)については、他のハイブリッドシステムと異なり、モータ単体で車両駆動を司ることから、モータ制御のみを管轄すれば車両全体の駆動を制御可能となる。後述するプリウス等のモータとエンジンの動力をバランスさせるようなセンシティブな制御は必要なく、車両駆動に関するコストダウンが実現可能である。
バッテリについても2)に示した様に一概に小型化によるコストダウンが実現、とは言えないが、2017年現在のリチウムイオンバッテリ性能をベースに考えると、バッテリのみが動力源となる電気自動車より、バッテリへのエネルギー供給を小型エンジンにより賄う本システムの方が結果として航続距離を確保できる。
さらに、3)に示した様に、通常のエンジン駆動の車両であれば、エンジンは幅広い回転数にて駆動を行い、それでも車両駆動に対して制御が追いつかない場合は減速比を変化させて、すなわちギアを可変させることで対応してきた。これに対して、シリーズハイブリッドシステムではエンジンはバッテリへの発電のみを担当すれば良く、幅広い回転数への対応を要求されることはない。これは、エンジンが高効率での駆動を維持することを許容されることを意味しており、結果として燃費性能の向上に繋がるものである。
デメリットとしては、通常の電気自動車と比較して、エンジン、発電機、給油システム等の配備が必要となり、その分だけ居住空間の確保が厳しくなる点が挙げられる。
<2.2.2 パラレルハイブリッドシステム>
パラレルハイブリッドシステムの動力部概念図を図2.3に示す。パラレルという名の通り、車両駆動にはエンジン動力と電気モータの動力が並列に入力可能であり、それぞれを融通した協調制御が可能となる。また、この方式のメリットとして低コストでの導入が可能である点がある。本田技研工業が販売していた初期のフィットやインサイト、CR-Z等のHEVはこの方式を採用していた。また、先に紹介したスズキ自動車のマイルドハイブリッドシステムもこの方式である。さらに欧州自動車メーカが多く採用を開始している48V電源システム車も、この方式である。後述するシリーズ・パラレルハイブリッドシステムの導入コストは40万円を超えるのに対して、この方式の導入コストは10万円〜20万円程度となり、コストパフォーマンスに優れる。
デメリットとしては、発電専用の発電機を持たず、M/G機構がモータ駆動と発電を同時に担うことから、車両駆動と発電の同時動作ができない。この各要素の動作制限により後述するシリーズ・パラレルハイブリッドシステムに燃費性能では劣る。シリーズ・パラレルハイブリッドシステムの燃費改善率が50%であるのに対して、およそ10%〜40%程度の燃費改善率が実現可能となる。
<2.2.3 シリーズ・パラレルハイブリッドシステム>
シリーズ・パラレルハイブリッドシステムの動力部概念図を図2.4に示す。図2.3のパラレルハイブリッドシステムと比較して発電機を追加した形となっている。この発電機の追加により、前項に指摘したパラレルハイブリッドシステムではできなかったモータ駆動時における発電を実現することができる。このシステム導入により従来エンジン駆動車と比較して、燃費改善率は50%を超えることができる。
デメリットとしては、各要素の制御の複雑性、並びに高コストである。しかしながら、最も燃費改善率が高い方式であることから、燃費性能がブランド力に繋がる様な車両に対しては、商業的に有効性を見いだすことができる。その最たる例が、後述するトヨタ自動車のプリウスである。
このシリーズ・パラレルハイブリッドシステムの駆動状態は、走行中には大きく分けて4つの走行モードが存在する。(4台目プリウスには全部で13種類の走行モードがあり、その詳細は後述する。)
(1)EV走行モード(バッテリ→モータ→車両駆動)
(2)HEV充電走行モード(エンジン→発電機→バッテリ→モータ→車両駆動)
(3)HEV走行モード(エンジン→車両駆動 + バッテリ→モータ→車両駆動)
(4)エンジン走行モード(エンジン→車両駆動 + エンジン→発電機→バッテリ)
ここで、(2)の状態はシリーズハイブリッドシステムの状態となっており、(3)ではパラレルハイブリッドシステムの状態である。この様に、エンジンとモータの協調制御によりそれぞれのハイブリッドシステム状態を作ることができるが故に、このシステムは“シリーズ・パラレル”ハイブリッドシステムと呼ばれている。
<2.2.4 ハイブリッドシステムの実例紹介>
ハイブリッドシステムの中でも2016年に大きな話題を呼んだ日産自動車のNOTE e-POWERを紹介する。この車両はハイブリッドシステムでは採用事例が少ないシリーズハイブリッドシステムを採用している。この車両外観は表2.3にて確認できる。
NOTE e-POWERのエンジンルームを空けると、図2.5の様な構成となっている。左側が1.2Lエンジンで、右側に電動モータ駆動用インバータが搭載されている。それ故、インバータやモータ部における損失も大きく、この写真を見て分かるとおり、エンジンと同様、インバータも水冷方式を採用していることが分かる。
この車両の特徴としては、EV走行モードがベースとなっているにも関わらず、バッテリ容量が1.5kWhと比較的少ない。これに対して、モータ出力は70kWと、モータが車両駆動を担うことから車格に対して比較的大きな出力性能を持っている。しかしながらモータの動力源はバッテリであり、このモータ出力に対して前述のバッテリ容量では航続距離が非常に短くなると予想される。従って、この電気システム上にエンジンと発電機を具備することでバッテリへの常時電力供給を可能とし、結果として前述の通りのバッテリ容量に“収める”ことが可能となっている。余談ではあるが、同じく日産自動車から2010年12月から販売開始された完全な電気自動車であるリーフ ZE0は、このNOTE e-POWERと動力機構が共通であり、エンジンを持たず、バッテリ容量を24kWhへ向上させている違いにより、EVとHEVの差別化を図っている。
話をNOTE e-POWERに戻す。図2.6にNOTE e-POWERの動力部システム外観を示す。左側がエンジンであり、右側が電気システムである。電気システムは上から、インバータ、駆動用モータ、発電機から構成される。また、エンジンと発電機のリンク、さらにモータ動力の車両駆動への伝達は、エンジンと電気システムとの間に挟まれたギアボックスの減速機、増速機により行う。駆動用モータの車両駆動への伝達は3軸2段でギア比7.388の減速機により伝達され、エンジン動力を発電機へ伝達するのは3軸2段でギア比0.6の増速機により構成されている。この様に、発電部と動力部の減速機と増速機を一括してギアボックスへ収めることで、充填油量も1.93Lへの低減を実現し、低コストの潤滑システムを実現している。
【参考文献】
(1)BMW,(https://www.bmw.co.jp/ja/)
(2)VOLVO,(http://www.volvocars.com/jp)
(3)フォルクスワーゲン,(http://www.volkswagen.co.jp/ja.html)
(4)メルセデス・ベンツ,(https://www.mercedes-benz.co.jp/)
(5)ポルシェ,(https://www.porsche.com/japan/)
(6)トヨタ自動車,(https://toyota.jp/)
(7)本田技研工業,(http://www.honda.co.jp/)
(8)日産自動車,(http://www.nissan.co.jp/)
(9)マツダ,(http://www.mazda.co.jp/)
(10)スズキ自動車,(http://www.suzuki.co.jp/)
(11)自動車技術,自動車技術会,Vol. 71 No. 8, 2017.
(12)山本,自動車用48V電源システム 欧州勢の思惑と日本企業が目指すべき技術開発の方向性,サイエンス&テクノロジー株式会社,ISBN978-4-86428-143-0,2016年9月28日刊行.
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