2021年7月16日金曜日
【技術読み物】歴代プリウスの電気システム(その1)
※ 本稿は【技術読み物】ハイブリッドシステム技術進化の歴史の続き。
本稿では、現在市販されている各ハイブリッドシステムの概念と各方式の違い、並びに歴代プリウスの電気システムにおける違いについて図説を行う。また、プリウスが採用しているハイブリッドシステムの構成要素の全ての動作モードを分類し、それぞれのシステム要素の重要性と役割について理解を深める。
2.1 現在市販されているハイブリッド車
<2.1.1 欧州におけるプラグイン化戦略>
2016年に各自動車メーカから販売開始された主なハイブリッド車とその諸元について表2.1、2.2、2.3にまとめた(1)〜(11)。まず、この表において海外自動車メーカから販売された車両は全てプラグイン・ハイブリッド車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)であり、国内自動車メーカから販売された車両は全てハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)である。
ここで、海外自動車メーカは全て欧州車(ドイツ車)であり、彼等は世界で最も厳しい欧州における二酸化炭素排出量規制をクリアする必要がある。ここで、特に車両重量が大きな車両を中心に販売する欧州自動車メーカはCAFE方式 (企業別平均燃費基準方式)によりそれぞれのメーカの特徴を活かした規制対応を行っている。さらに、欧州における燃費測定法である「ECE R101」では、PHEVへの二酸化炭素排出量規制の緩和措置のため、二酸化炭素排出量換算に対する軽減係数を用意している(12)。この軽減係数は下記の式で示される。
(軽減係数)=(EV走行可能距離+25)÷25 ・・・(1)
PHEVにおいて、この軽減係数を用いて、最終的なEUの二酸化炭素排出量規制に対する換算値を下記の様に計算することが可能となる。
(二酸化炭素排出量換算値)=(現状の二酸化炭素排出量)÷(軽減係数)・・・(2)
国内自動車メーカが主軸のHEVに対してPHEVは、電気自動車(EV:Electric Vehicle)色を強くしEV走行モードを積極的に取り入れたシステムである。EV走行を前提としているが故に、プラグインという呼称の因となったバッテリ充電器を装備し、表2.1〜2.3から分かるとおり、大型のバッテリを搭載している。これによりEV走行可能な距離を延長することで、特にセグメントがDもしくはE以上の車両における二酸化炭素排出量換算値を引き下げる戦略を執っている。こういった理由から、欧州自動車メーカは積極的にPHEVの販売を促進しているが、2018年から施行される米国でのZEV規制への対応も視野に入れている。2018年のZEV規制では、HEVはその対象から外れてしまうことから、世界における次世代自動車のPHEV化の流れは益々広がっていくと考えられる。
こういった世界的な技術潮流に対して、我が国の自動車は後手に回っているとも見て取れる。もちろん、プリウスPHVの様にプラグイン化を果たしてEV走行可能距離を60km以上に拡大した車両も存在するが、それでも後述するようにプリウスPHVのシステムはEV走行可能距離の延長要求に対応した構成とはなっていない。今後の欧州と米国における市場拡大へ向けて、現状国産車の“ガラパゴス化”は、大きなハードルとなることが予想される。
<2.1.2>各自動車メーカ別環境対策車解説
本項では表2.1、2.2、2.3をベースに各自動車メーカから販売されている環境対策車(PHEVとHEV)について解説していく。
BMWは2016年1月25日に、225xe Active Tourerと330e iPerformanceを販売開始した。後者はBMW伝統の後輪駆動を採用しているのに対して、225xe Active Tourerでは前輪を内燃式機構、後輪をモータによる駆動とし、運転者による設定、並びに走行状態に応じて四輪駆動化、前輪駆動(FF)化、後輪駆動(FR)化に変化可能となっている。また同年10月13日にはBMWは740e iPerformanceの販売を開始している。JC08走行サイクルモードにおけるEV走行可能距離は、225xe Active Tourerは42.4km、330e iPerformanceは36.8km、740e iPerformanceは42.0kmである。
VOLVOは1月27日にXC90 T8 Twin Engine AWD Inscriptionを販売開始した。こちらもPHEVでJC08走行サイクルモードにおけるEV走行可能距離は35.4kmである。この車両も前輪を内燃式機構、後輪をモータによる駆動としており、EV走行時は後輪駆動となる。
Volkswagenは同年6月7日にPassat GTE/Passat GTE Variantが発売された。この2つの車両は、1.4L TSIエンジンとDSG(Direct Shift Gear Box:ダイレクトシフトギアボックス)の間にモータを配置したシステム構成となっている。このモデルの特徴としては、エンジン、モータ、DSGのそれぞれの間にクラッチを持っており、このクラッチの切替によりEV走行モード、HEV走行モード、エンジン走行モードの3種類の走行モードを切り替えている。この車両のJC08走行サイクルモードにおけるEV走行可能距離は51.7kmである。
Mercedes-BenzからはGLC 350e 4MATIC Sportsが同年9月9日に発売された。この車両のJC08走行サイクルモードにおけるEV走行可能距離は30.1kmである。この車両はフルタイム四輪駆動(同社の呼称では4MATIC)であることから、EV走行距離や燃費は比較的低い値に収まっている。
PorscheからPanamera 4 E-Hybridが同年10月11日に販売開始した。この車両のJC08走行サイクルモードにおけるEV走行可能距離は50.0kmであり、このクラスの車両としてはEV走行可能距離は比較的長い。これはPorsche社の次世代自動車戦略に起因すると考えられる。すなわち、同社は2016年にその開発状況を明らかにした「Mission E」と呼ばれるピュアEVを、北米における対テスラ戦略車として位置付け、2020年の販売開始へ向けて準備を進めている。この北米戦略車は、新フレームベースの車両となると予想されているが、最も近いパッケージとしてはこのPanameraと考えられている。そのため、表2.2に示されている通り、大容量バッテリを搭載し、将来の電気自動車化への布石と見て取れるシステムとなっている。
国内勢の各販売車両に対する特徴を以降に紹介していく。同年4月18日に、トヨタ自動車からAurisが発売された。この車両の特徴は、後述するTOYOTA Hybrid System Ⅱ(THS-II)にリダクション機能をモータに具備した構成している。このリダクション機能によりモータの付加価値を上げることに成功している。具体的には、モータの小型軽量化、並びにモータの駆動最高回転数の向上である。特に後者については4代目プリウスに搭載されているモータの回転数に対して2倍の回転数を実現している。
また同年12月14日には、トヨタ自動車よりC-HRが販売開始された。この車は4代目プリウスと同じToyota New Global Architectureの思想で設計開発された。この設計思想による車両としてはトヨタ自動車から2台目の発売となる。この車両もやはりTHS-IIを搭載しており、C-HRは様々な意味でトヨタ自動車の中核的な戦略車の位置付けであると考えられる。
同年2月5日、本田技研工業よりODESSEY HYBRIDが発売された。この車両にはIntelligent Multi-Mode Drive(i-MMD)が配備されている。これまで本田技研工業から発表されてきたHEVはパラレルハイブリッド方式が主流であった。これに対して、i-MMDでは従来の駆動用モータだけでなく、発電用のモータを新たに設置することで、シリーズ・パラレルハイブリッドシステム方式としている。(各方式については後述。)この方式をベースにODESSEY HYBRIDは3つの走行モードを用意している。EV走行モード、HEV走行モード、並びにエンジン走行モードである。この走行モードにおいて、この車両ではHEV走行モードにおいては車両駆動は基本的にモータで行い、エンジンは追加した発電機での発電用のみを担当する。後に記載する日産自動車のNOTE e-POWERと同じシステム状態となっており、この場合はシリーズハイブリッド方式としての走行モードである。
7月14日はマツダよりAXELA HYBRIDが発売された。この車両はハイブリッド車専用のエンジンSKYACTIVE-G 2.0を搭載しており、シリーズ・パラレルハイブリッドシステム方式を採用している。
2月18日にはスズキ自動車からIGNIS HYBRIDが販売開始された。この車両はこれまでのPHEVやHEVのシステムとは異なり、従来のハイブリッドシステムレス方式と同じ12V電源条件下でM/G機構を備えている。他の100V以上の電圧条件でM/G機構を駆動させるシステムと異なり低電圧駆動となるため、モータとしての定格出力は表2.3に示した通り、2.3kW程度である。この出力ではモータ単体による車両駆動は困難である。従って、加速時のトルクアシスト、並びに減速時の電力回生に使用されるシステムとなっており、このシステムは通常のハイブリッドシステムに対して「マイルドハイブリッドシステム」と呼ばれている。スズキ自動車のマイルドハイブリッドシステムの電気システム概要を図2.1に示す。
12V電源は従来の鉛蓄電池に追加して同じ12Vのリチウムイオンバッテリ(SCiB:東芝製)を並列接続して大容量化、並びに高速応答対応させている。このマイルドハイブリッドシステムに搭載されるM/G機構はISG(Integrated Starter Generator)と呼ばれていることからも分かるとおり、モータ機能は基本的にスタータとしての性能に期待されている。通常のスタータは速度ゼロ付近での始動しかできないが、今回採用されたISGは13km/h条件での始動が可能となっており、アイドリングストップ期間を多く確保できることから、燃費改善が見込める。この12V電源マイルドハイブリッドシステムはスズキ自動車に特有のものであり、従来の内燃式機構方式のモデルと比較しておよそ10%の燃費改善を実現可能である。
【参考文献】
(1)BMW,(https://www.bmw.co.jp/ja/)
(2)VOLVO,(http://www.volvocars.com/jp)
(3)フォルクスワーゲン,(http://www.volkswagen.co.jp/ja.html)
(4)メルセデス・ベンツ,(https://www.mercedes-benz.co.jp/)
(5)ポルシェ,(https://www.porsche.com/japan/)
(6)トヨタ自動車,(https://toyota.jp/)
(7)本田技研工業,(http://www.honda.co.jp/)
(8)日産自動車,(http://www.nissan.co.jp/)
(9)マツダ,(http://www.mazda.co.jp/)
(10)スズキ自動車,(http://www.suzuki.co.jp/)
(11)自動車技術,自動車技術会,Vol. 71 No. 8, 2017.
(12)山本,自動車用48V電源システム 欧州勢の思惑と日本企業が目指すべき技術開発の方向性,サイエンス&テクノロジー株式会社,ISBN978-4-86428-143-0,2016年9月28日刊行.
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