2021年7月19日月曜日

(9/10)NE先端テクノロジーフォーラムにて講演予定



9月10日に、オンラインにて開催されるNE先端テクノロジーフォーラムにて、講演させて頂きます。
主催はいつもお世話になっている日経BP様です。

講演題目は「日米欧中のEV用パワー半導体戦略と各自動車メーカのEV用パワーエレクトロニクス応用技術最前線」です。
プログラムは下記にアップされています。

https://project.nikkeibp.co.jp/event/ne210910/

下記、概要です。

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日米欧中各国の電気自動車市場に対する競争が激化しており、それに付随するパワーエレクトロニクス応用技術も激しく揺れ動いている。
その中で、低コスト化に振った中国と、炭化シリコン(SiC)化を進める米国、バッテリ電圧高圧化を目指す欧州の狭間にあり、我が国はどの様な車載用パワエレ技術の戦略を執るべきかについて、その新戦略を掲示する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・

是非、ご参加くださいませ!


今日の動画は、先日開催された名古屋大学空手同好会のメンバーに対する沖縄拳法セミナーでの、ナイハンチ初段という型の流派による違いの検討。



次はキチンと、空手着を着てから、やろう・・・。


【活動のご紹介】
    ■テスラ・モデル3インバータ解析動画




    ■研究室へのアクセス

    新研究棟への道案内は、こちらの投稿を参考にされてください。

    本山駅からタクシーで「東山公園テニスセンター」前のミニストップというコンビニを目指して、C-TECsの裏手に来られた方が、暑い中、歩かれる距離が短くて良いかと思います。
    本山駅のタクシー乗り場にタクシーが居ない場合は「つばめタクシー(052-203-1212)」にて呼ばれれば直ぐに来るはずです。


    ■出版物

  1. 「パワーエレクトロニクス回路における小型・高効率設計法 ~昇圧チョッパから結合インダクタの設計まで~ (設計技術シリーズ)」、科学情報出版
    アマゾンサイトはこちら
    紹介ページ<http://masayamamoto.blogspot.jp/2014/11/blog-post_12.html

  2. 「テスラ「モデル3/モデルS」徹底分解【インバーター/モーター編】」、日経BP社
    書籍紹介ページはこちら
    紹介ページ<http://nagoyapelab.blogspot.com/2020/03/3s.html

    ■講演予定

  1. 9月10日:NE先端テクノロジーフォーラム日経BP様主催
    ※毎年開催される大きな日系BP様のイベントです!
    紹介ページ<http://nagoyapelab.blogspot.com/2021/07/910ne.html

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2021年7月16日金曜日

【技術読み物】歴代プリウスの電気システム(その3)



※ 本稿は【技術読み物】歴代プリウスの電気システム(その2)の続き。


2.3 歴代プリウスの電気システム

 <2.3.1 初代プリウス>
 これより、我が国で環境対策車として先頭を走るトヨタ自動車のプリウスに関する機構説明に入る。まずは初代プリウスから順を追って図説を行う。
 初代プリウスのエンジンルームを空けた様子を図2.7に示す。左側がエンジンであり、右側がインバータを含む電力制御装置となる。トヨタ自動車はこの電気系の制御装置をPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)と呼んでいる。インバータに使用されているパワー半導体はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であり、バイポーラ半導体であることから大電流に対応可能である。ただし、パワー半導体では、電流が流れている際の導通損失、さらにバッテリの直流電圧をモータ駆動用の交流電圧に変換する際にスイッチングを行うが、そのスイッチング時に発生するスイッチング損失が発生することで、インバータは発熱してしまう。さらにモータ部も、磁性部の鉄損と配線抵抗成分による銅損が発生し、やはり熱を発生する。これらは水冷方式により冷却を行っている。しかしながら、従来の内燃式駆動車両における冷却システムは使用できない。従来車両はラジエータからエンジンまで配管し、ウォータポンプにて冷却水を循環させることで、エンジンでの発熱をコントロールしていた。この冷却水のピーク温度は110℃に保たれる。しかしながら、インバータを含むシリコン半導体や電気部品にその温度の冷却水を循環させると、半導体やモータ磁性部における損失が大きくなり、さらに大幅にキャパシタ等の寿命劣化に直結してしまう。よって、この初代プリウスにはPCUやモータの冷却には別の冷却系統を用意している。エンジンのラジエータに並べる形で前に電気系冷却用ラジエータを用意し、それらをPCU、モータに配管し、エンジン冷却と同じくウォータポンプにて冷却水を循環させ、電気系全体の冷却を行っている。この冷却水温度はエンジン冷却系と異なり前述の理由から、65℃という低い温度に保たれている。



 初代プリウスの動力部における諸元を表2.4に示す。電気系の駆動を司るモータ定格出力は30kW、最大出力は33kWであり、その動力源は288Vニッケル水素バッテリである。(1.2V単位の単電池を直列に6個接続したものを1セルとして、これを40セル直列接続することで288Vを発生している。
 また、初代プリウスの動力部のシステム概略図を図2.8に示す。このシステムはトヨタ・ハイブリッドシステム(THS:Toyota Hybrid System)と呼ばれ、現在生産されている4台目プリウスに搭載されるTHS-IIの源流システムと言える。この図は図2.4のシリーズ・パラレルハイブリッドシステム概念図をより詳細に記載したものであり、各動力部、電力系統を仲介する制御器を表記している。電力系統の仲介は各回転機(M/G機構、発電機)に接続されたインバータにて行い、それらの入出力となる動力部、並びにエンジン出力の車両駆動側への動力部は、動力分割機構を介することで協調制御され、所望の車両動力を獲得している。前章にて紹介したとおり、プリウス・プロトタイプではこのニッケル水素バッテリの代わりに大容量キャパシタを搭載していた。バッテリとキャパシタの違いを図2.9に示す。この図より、キャパシタはそのエネルギー蓄積を電荷の蓄積により具現化する。よって、電流の入出力時にはキャパシタ電圧は変動する。ここで、図2.8を見てみると、発電機の電力とM/G機構の電力を仲介する位置に配置されているのがバッテリであり、これが大容量キャパシタであった場合、例えば減速時に発電機電力とさらに発電機として動作するM/G機構からの電流が流入してくることで、キャパシタ間電圧が過大に上昇することが考えられる。この過電圧により、電気システム各部品の耐圧を超えてしまう恐れがあり、電気系故障の原因となり得る。よって、初代プリウスでは大容量バッテリからニッケル水素バッテリへ変更することで、その問題点を解決している。



 しかしながら、初代プリウスには同じ視点での問題点が残った。新たに搭載したニッケル水素バッテリの電圧変動である。前述のキャパシタほどでは無くとも、THSの動作モードや温度等の環境変化に応じてバッテリ電圧も変化する。JC08走行サイクルモードにおいて、およそ150V〜300Vまで変化すると言われている。このバッテリ電圧変化、並びに温度変動により所望の出力を得ることができない場合がある。これによってユーザからはパワー不足等の声がフィードバックされており、2代目以降のプリウスではこの根本的な対策を施している。そのシステムがTHS-IIとなる。


 <2.3.2 歴代プリウスの電気システム比較>
 前項での初代プリウスにおける問題点の解決へ向けて、トヨタ自動車はどの様にアプローチしたのであろうか。その具体的な手法を分かりやすく電気システム概略図に落とし込んだ歴代プリウスの比較図を図2.10に示す。


 この図を見ると、初代プリウスでは288Vのニッケル水素バッテリを電源とし、直接インバータによりモータ駆動制御を行っていることが分かる。それ故、モータ出力はバッテリ電圧に直接依存していることが分かる。これに対して2台目では、同じくニッケル水素バッテリとモータ駆動用三相インバータの間に昇圧チョッパを配置している。これがTHS-IIである。昇圧チョッパとは、入力側(この図の場合には昇圧チョッパの左側の2配線が入力側)の直流電圧を出力側(この図の場合には昇圧チョッパの右側の2配線が出力側)の異なる値の直流電圧に変換する電力変換装置である。直流を直流に変換することから、DC-DCコンバータとも呼ばれる。そして、2台目プリウスではこの昇圧チョッパは202Vのニッケル水素バッテリの直流電圧を500Vの直流電圧に変換している。この昇圧チョッパをニッケル水素バッテリ前段に入れることで、モータ駆動用電圧を安定した値に維持することが可能となる。すなわち、温度変化や走行状態によるニッケル水素バッテリの電圧変化に、モータ出力は影響を受けないこととなる。これが、トヨタ自動車が考えたバッテリ電圧変動に対する技術的な問題解決アプローチの基本的な考え方である。
 そして、昇圧チョッパ導入の効果はもう一つのメリットを生み出す。このより高い直流電圧値の条件によりモータ駆動を行っていることから、同じ出力値の場合はモータに流入する電流値を抑制することが可能となる。そして、電流値が抑制できるということは、同じ応答速度条件と考えると、モータ巻線をより多く巻くことが可能となる。モータにおいて巻線の増加はアンペールの力の法則から出力の増加を意味する。2台目プリウス以降のモデルでは、この巻線増加によりモータ出力性能の向上を実現している。
 さらに、昇圧チョッパを導入することで、バッテリ電圧値を下げることが可能となる。THS-IIでは、昇圧チョッパによりモータ駆動用電圧を高く設定が可能なため、昇圧チョッパ前段となるバッテリ電圧は低く抑制可能である。具体的にはバッテリセル数を削減できることを意味する。これにより、コスト抑制、さらにバッテリ部の小型軽量化が実現可能となる。


 <2.3.3 THS-IIのメカニズムと動作>
 図2.10で示したTHS-IIのより具体的なシステム概念図を図2.11に示す。大容量バッテリ(ニッケル水素バッテリ、もしくは4台目上位グレードにおいては207Vのリチウムイオンバッテリ)と各インバータの間に昇圧チョッパを挿入し、モータ駆動用電圧を引き上げ、かつ安定化させている。図2.8のTHSと比較すると、昇圧チョッパの有無の違いのみとなっている。この昇圧チョッパの挿入により、駆動用モータの高出力化、並びに発電機の大容量化(17kW)を実現している。


 2.2.3項にて記載した通り、THS-IIでは詳細には13の走行モードを持つ。その走行モードと各システム構成要素の駆動状態を示した表を表2.5に示す。実際にはHV走行モードだけでも3つの走行モードを持つことが分かる。これらを細かく協調制御することで、高燃費な性能を維持しながらユーザが求める力強い走行性能も同時に確保している。


 この表2.5において、理解が難しい点は発電機の駆動に関する点である。前述の通りTHS-IIでは高電圧条件下で17kWの大容量発電機を搭載可能となったが、この発電機は発電機としてではなく、モータとして駆動する走行モードが2つだけ存在する。エンジンスタート時とエンジンブレーキ制動時である。エンジンスタート時は、プリウスはセルスタータを持たないため、この発電機をスタータとして機能させている。それ故、このエンジンスタート時では、電動モード時にモータとして動作を行っている。
 また、エンジンブレーキ制動時においては、大容量であるM/G機構が発電機として動作する。それ故、大容量バッテリが過充電となる状態となる。この状態を回避するため、発電機を負荷としてモータ駆動させることで過分なバッテリ電力を消費することで対応を行っている。この状態においても電動モード時はモータとしての動作を意味している。


【参考文献】
(1)BMW,(https://www.bmw.co.jp/ja/)
(2)VOLVO,(http://www.volvocars.com/jp)
(3)フォルクスワーゲン,(http://www.volkswagen.co.jp/ja.html)
(4)メルセデス・ベンツ,(https://www.mercedes-benz.co.jp/)
(5)ポルシェ,(https://www.porsche.com/japan/)
(6)トヨタ自動車,(https://toyota.jp/)
(7)本田技研工業,(http://www.honda.co.jp/)
(8)日産自動車,(http://www.nissan.co.jp/)
(9)マツダ,(http://www.mazda.co.jp/)
(10)スズキ自動車,(http://www.suzuki.co.jp/)
(11)自動車技術,自動車技術会,Vol. 71 No. 8, 2017.
(12)山本,自動車用48V電源システム 欧州勢の思惑と日本企業が目指すべき技術開発の方向性,サイエンス&テクノロジー株式会社,ISBN978-4-86428-143-0,2016年9月28日刊行.



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【技術読み物】歴代プリウスの電気システム(その2)



※ 本稿は【技術読み物】歴代プリウスの電気システム(その1)の続き。


2.2 各ハイブリッドシステムの概要

 <2.2.1 シリーズハイブリッドシステム>
 本項では表2.1〜2.3にて記載していた各ハイブリッド方式について図説を行う。
 図2.2にシリーズハイブリッドシステムの概念図を示す。この方式は車両駆動を全て電気モータに担わせている。従って、バッテリから車両駆動までのエネルギー伝達ラインを見てみると、電気自動車と全く同じ機構となっている。しかしながら、電気自動車ではバッテリへのエネルギー供給を外部電力から充電器を介して行われるのに対して、このシリーズハイブリッドシステムではエンジン動力を用いて発電機を駆動させることにより発電を行い、その電力をコンバータを介して給電することで実現している。このシステムの利点としては、以下の項目が挙げられる。


 1)車両駆動制御が簡易
 2)高価であるバッテリを小型化可能
 3)エンジンの高効率駆動を持続可能

 ここで1)については、他のハイブリッドシステムと異なり、モータ単体で車両駆動を司ることから、モータ制御のみを管轄すれば車両全体の駆動を制御可能となる。後述するプリウス等のモータとエンジンの動力をバランスさせるようなセンシティブな制御は必要なく、車両駆動に関するコストダウンが実現可能である。
 バッテリについても2)に示した様に一概に小型化によるコストダウンが実現、とは言えないが、2017年現在のリチウムイオンバッテリ性能をベースに考えると、バッテリのみが動力源となる電気自動車より、バッテリへのエネルギー供給を小型エンジンにより賄う本システムの方が結果として航続距離を確保できる。
 さらに、3)に示した様に、通常のエンジン駆動の車両であれば、エンジンは幅広い回転数にて駆動を行い、それでも車両駆動に対して制御が追いつかない場合は減速比を変化させて、すなわちギアを可変させることで対応してきた。これに対して、シリーズハイブリッドシステムではエンジンはバッテリへの発電のみを担当すれば良く、幅広い回転数への対応を要求されることはない。これは、エンジンが高効率での駆動を維持することを許容されることを意味しており、結果として燃費性能の向上に繋がるものである。
 デメリットとしては、通常の電気自動車と比較して、エンジン、発電機、給油システム等の配備が必要となり、その分だけ居住空間の確保が厳しくなる点が挙げられる。


 <2.2.2 パラレルハイブリッドシステム>
 パラレルハイブリッドシステムの動力部概念図を図2.3に示す。パラレルという名の通り、車両駆動にはエンジン動力と電気モータの動力が並列に入力可能であり、それぞれを融通した協調制御が可能となる。また、この方式のメリットとして低コストでの導入が可能である点がある。本田技研工業が販売していた初期のフィットやインサイト、CR-Z等のHEVはこの方式を採用していた。また、先に紹介したスズキ自動車のマイルドハイブリッドシステムもこの方式である。さらに欧州自動車メーカが多く採用を開始している48V電源システム車も、この方式である。後述するシリーズ・パラレルハイブリッドシステムの導入コストは40万円を超えるのに対して、この方式の導入コストは10万円〜20万円程度となり、コストパフォーマンスに優れる。
 デメリットとしては、発電専用の発電機を持たず、M/G機構がモータ駆動と発電を同時に担うことから、車両駆動と発電の同時動作ができない。この各要素の動作制限により後述するシリーズ・パラレルハイブリッドシステムに燃費性能では劣る。シリーズ・パラレルハイブリッドシステムの燃費改善率が50%であるのに対して、およそ10%〜40%程度の燃費改善率が実現可能となる。



 <2.2.3 シリーズ・パラレルハイブリッドシステム>
 シリーズ・パラレルハイブリッドシステムの動力部概念図を図2.4に示す。図2.3のパラレルハイブリッドシステムと比較して発電機を追加した形となっている。この発電機の追加により、前項に指摘したパラレルハイブリッドシステムではできなかったモータ駆動時における発電を実現することができる。このシステム導入により従来エンジン駆動車と比較して、燃費改善率は50%を超えることができる。
 デメリットとしては、各要素の制御の複雑性、並びに高コストである。しかしながら、最も燃費改善率が高い方式であることから、燃費性能がブランド力に繋がる様な車両に対しては、商業的に有効性を見いだすことができる。その最たる例が、後述するトヨタ自動車のプリウスである。


 このシリーズ・パラレルハイブリッドシステムの駆動状態は、走行中には大きく分けて4つの走行モードが存在する。(4台目プリウスには全部で13種類の走行モードがあり、その詳細は後述する。)

 (1)EV走行モード(バッテリ→モータ→車両駆動)
 (2)HEV充電走行モード(エンジン→発電機→バッテリ→モータ→車両駆動)
 (3)HEV走行モード(エンジン→車両駆動 + バッテリ→モータ→車両駆動)
 (4)エンジン走行モード(エンジン→車両駆動 + エンジン→発電機→バッテリ)

 ここで、(2)の状態はシリーズハイブリッドシステムの状態となっており、(3)ではパラレルハイブリッドシステムの状態である。この様に、エンジンとモータの協調制御によりそれぞれのハイブリッドシステム状態を作ることができるが故に、このシステムは“シリーズ・パラレル”ハイブリッドシステムと呼ばれている。


 <2.2.4 ハイブリッドシステムの実例紹介>
 ハイブリッドシステムの中でも2016年に大きな話題を呼んだ日産自動車のNOTE e-POWERを紹介する。この車両はハイブリッドシステムでは採用事例が少ないシリーズハイブリッドシステムを採用している。この車両外観は表2.3にて確認できる。
 NOTE e-POWERのエンジンルームを空けると、図2.5の様な構成となっている。左側が1.2Lエンジンで、右側に電動モータ駆動用インバータが搭載されている。それ故、インバータやモータ部における損失も大きく、この写真を見て分かるとおり、エンジンと同様、インバータも水冷方式を採用していることが分かる。


 この車両の特徴としては、EV走行モードがベースとなっているにも関わらず、バッテリ容量が1.5kWhと比較的少ない。これに対して、モータ出力は70kWと、モータが車両駆動を担うことから車格に対して比較的大きな出力性能を持っている。しかしながらモータの動力源はバッテリであり、このモータ出力に対して前述のバッテリ容量では航続距離が非常に短くなると予想される。従って、この電気システム上にエンジンと発電機を具備することでバッテリへの常時電力供給を可能とし、結果として前述の通りのバッテリ容量に“収める”ことが可能となっている。余談ではあるが、同じく日産自動車から2010年12月から販売開始された完全な電気自動車であるリーフ ZE0は、このNOTE e-POWERと動力機構が共通であり、エンジンを持たず、バッテリ容量を24kWhへ向上させている違いにより、EVとHEVの差別化を図っている。


 話をNOTE e-POWERに戻す。図2.6にNOTE e-POWERの動力部システム外観を示す。左側がエンジンであり、右側が電気システムである。電気システムは上から、インバータ、駆動用モータ、発電機から構成される。また、エンジンと発電機のリンク、さらにモータ動力の車両駆動への伝達は、エンジンと電気システムとの間に挟まれたギアボックスの減速機、増速機により行う。駆動用モータの車両駆動への伝達は3軸2段でギア比7.388の減速機により伝達され、エンジン動力を発電機へ伝達するのは3軸2段でギア比0.6の増速機により構成されている。この様に、発電部と動力部の減速機と増速機を一括してギアボックスへ収めることで、充填油量も1.93Lへの低減を実現し、低コストの潤滑システムを実現している。


【参考文献】
(1)BMW,(https://www.bmw.co.jp/ja/)
(2)VOLVO,(http://www.volvocars.com/jp)
(3)フォルクスワーゲン,(http://www.volkswagen.co.jp/ja.html)
(4)メルセデス・ベンツ,(https://www.mercedes-benz.co.jp/)
(5)ポルシェ,(https://www.porsche.com/japan/)
(6)トヨタ自動車,(https://toyota.jp/)
(7)本田技研工業,(http://www.honda.co.jp/)
(8)日産自動車,(http://www.nissan.co.jp/)
(9)マツダ,(http://www.mazda.co.jp/)
(10)スズキ自動車,(http://www.suzuki.co.jp/)
(11)自動車技術,自動車技術会,Vol. 71 No. 8, 2017.
(12)山本,自動車用48V電源システム 欧州勢の思惑と日本企業が目指すべき技術開発の方向性,サイエンス&テクノロジー株式会社,ISBN978-4-86428-143-0,2016年9月28日刊行.



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【技術読み物】歴代プリウスの電気システム(その1)



※ 本稿は【技術読み物】ハイブリッドシステム技術進化の歴史の続き。


 本稿では、現在市販されている各ハイブリッドシステムの概念と各方式の違い、並びに歴代プリウスの電気システムにおける違いについて図説を行う。また、プリウスが採用しているハイブリッドシステムの構成要素の全ての動作モードを分類し、それぞれのシステム要素の重要性と役割について理解を深める。


2.1 現在市販されているハイブリッド車

  <2.1.1 欧州におけるプラグイン化戦略>
 2016年に各自動車メーカから販売開始された主なハイブリッド車とその諸元について表2.1、2.2、2.3にまとめた(1)〜(11)。まず、この表において海外自動車メーカから販売された車両は全てプラグイン・ハイブリッド車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)であり、国内自動車メーカから販売された車両は全てハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)である。




 ここで、海外自動車メーカは全て欧州車(ドイツ車)であり、彼等は世界で最も厳しい欧州における二酸化炭素排出量規制をクリアする必要がある。ここで、特に車両重量が大きな車両を中心に販売する欧州自動車メーカはCAFE方式 (企業別平均燃費基準方式)によりそれぞれのメーカの特徴を活かした規制対応を行っている。さらに、欧州における燃費測定法である「ECE R101」では、PHEVへの二酸化炭素排出量規制の緩和措置のため、二酸化炭素排出量換算に対する軽減係数を用意している(12)。この軽減係数は下記の式で示される。

 (軽減係数)=(EV走行可能距離+25)÷25 ・・・(1)

 PHEVにおいて、この軽減係数を用いて、最終的なEUの二酸化炭素排出量規制に対する換算値を下記の様に計算することが可能となる。

 (二酸化炭素排出量換算値)=(現状の二酸化炭素排出量)÷(軽減係数)・・・(2)

 国内自動車メーカが主軸のHEVに対してPHEVは、電気自動車(EV:Electric Vehicle)色を強くしEV走行モードを積極的に取り入れたシステムである。EV走行を前提としているが故に、プラグインという呼称の因となったバッテリ充電器を装備し、表2.1〜2.3から分かるとおり、大型のバッテリを搭載している。これによりEV走行可能な距離を延長することで、特にセグメントがDもしくはE以上の車両における二酸化炭素排出量換算値を引き下げる戦略を執っている。こういった理由から、欧州自動車メーカは積極的にPHEVの販売を促進しているが、2018年から施行される米国でのZEV規制への対応も視野に入れている。2018年のZEV規制では、HEVはその対象から外れてしまうことから、世界における次世代自動車のPHEV化の流れは益々広がっていくと考えられる。
 こういった世界的な技術潮流に対して、我が国の自動車は後手に回っているとも見て取れる。もちろん、プリウスPHVの様にプラグイン化を果たしてEV走行可能距離を60km以上に拡大した車両も存在するが、それでも後述するようにプリウスPHVのシステムはEV走行可能距離の延長要求に対応した構成とはなっていない。今後の欧州と米国における市場拡大へ向けて、現状国産車の“ガラパゴス化”は、大きなハードルとなることが予想される。


 <2.1.2>各自動車メーカ別環境対策車解説
 本項では表2.1、2.2、2.3をベースに各自動車メーカから販売されている環境対策車(PHEVとHEV)について解説していく。
 BMWは2016年1月25日に、225xe Active Tourerと330e iPerformanceを販売開始した。後者はBMW伝統の後輪駆動を採用しているのに対して、225xe Active Tourerでは前輪を内燃式機構、後輪をモータによる駆動とし、運転者による設定、並びに走行状態に応じて四輪駆動化、前輪駆動(FF)化、後輪駆動(FR)化に変化可能となっている。また同年10月13日にはBMWは740e iPerformanceの販売を開始している。JC08走行サイクルモードにおけるEV走行可能距離は、225xe Active Tourerは42.4km、330e iPerformanceは36.8km、740e iPerformanceは42.0kmである。
 VOLVOは1月27日にXC90 T8 Twin Engine AWD Inscriptionを販売開始した。こちらもPHEVでJC08走行サイクルモードにおけるEV走行可能距離は35.4kmである。この車両も前輪を内燃式機構、後輪をモータによる駆動としており、EV走行時は後輪駆動となる。
 Volkswagenは同年6月7日にPassat GTE/Passat GTE Variantが発売された。この2つの車両は、1.4L TSIエンジンとDSG(Direct Shift Gear Box:ダイレクトシフトギアボックス)の間にモータを配置したシステム構成となっている。このモデルの特徴としては、エンジン、モータ、DSGのそれぞれの間にクラッチを持っており、このクラッチの切替によりEV走行モード、HEV走行モード、エンジン走行モードの3種類の走行モードを切り替えている。この車両のJC08走行サイクルモードにおけるEV走行可能距離は51.7kmである。
 Mercedes-BenzからはGLC 350e 4MATIC Sportsが同年9月9日に発売された。この車両のJC08走行サイクルモードにおけるEV走行可能距離は30.1kmである。この車両はフルタイム四輪駆動(同社の呼称では4MATIC)であることから、EV走行距離や燃費は比較的低い値に収まっている。
 PorscheからPanamera 4 E-Hybridが同年10月11日に販売開始した。この車両のJC08走行サイクルモードにおけるEV走行可能距離は50.0kmであり、このクラスの車両としてはEV走行可能距離は比較的長い。これはPorsche社の次世代自動車戦略に起因すると考えられる。すなわち、同社は2016年にその開発状況を明らかにした「Mission E」と呼ばれるピュアEVを、北米における対テスラ戦略車として位置付け、2020年の販売開始へ向けて準備を進めている。この北米戦略車は、新フレームベースの車両となると予想されているが、最も近いパッケージとしてはこのPanameraと考えられている。そのため、表2.2に示されている通り、大容量バッテリを搭載し、将来の電気自動車化への布石と見て取れるシステムとなっている。

 国内勢の各販売車両に対する特徴を以降に紹介していく。同年4月18日に、トヨタ自動車からAurisが発売された。この車両の特徴は、後述するTOYOTA Hybrid System Ⅱ(THS-II)にリダクション機能をモータに具備した構成している。このリダクション機能によりモータの付加価値を上げることに成功している。具体的には、モータの小型軽量化、並びにモータの駆動最高回転数の向上である。特に後者については4代目プリウスに搭載されているモータの回転数に対して2倍の回転数を実現している。
 また同年12月14日には、トヨタ自動車よりC-HRが販売開始された。この車は4代目プリウスと同じToyota New Global Architectureの思想で設計開発された。この設計思想による車両としてはトヨタ自動車から2台目の発売となる。この車両もやはりTHS-IIを搭載しており、C-HRは様々な意味でトヨタ自動車の中核的な戦略車の位置付けであると考えられる。
 同年2月5日、本田技研工業よりODESSEY HYBRIDが発売された。この車両にはIntelligent Multi-Mode Drive(i-MMD)が配備されている。これまで本田技研工業から発表されてきたHEVはパラレルハイブリッド方式が主流であった。これに対して、i-MMDでは従来の駆動用モータだけでなく、発電用のモータを新たに設置することで、シリーズ・パラレルハイブリッドシステム方式としている。(各方式については後述。)この方式をベースにODESSEY HYBRIDは3つの走行モードを用意している。EV走行モード、HEV走行モード、並びにエンジン走行モードである。この走行モードにおいて、この車両ではHEV走行モードにおいては車両駆動は基本的にモータで行い、エンジンは追加した発電機での発電用のみを担当する。後に記載する日産自動車のNOTE e-POWERと同じシステム状態となっており、この場合はシリーズハイブリッド方式としての走行モードである。

 7月14日はマツダよりAXELA HYBRIDが発売された。この車両はハイブリッド車専用のエンジンSKYACTIVE-G 2.0を搭載しており、シリーズ・パラレルハイブリッドシステム方式を採用している。
 2月18日にはスズキ自動車からIGNIS HYBRIDが販売開始された。この車両はこれまでのPHEVやHEVのシステムとは異なり、従来のハイブリッドシステムレス方式と同じ12V電源条件下でM/G機構を備えている。他の100V以上の電圧条件でM/G機構を駆動させるシステムと異なり低電圧駆動となるため、モータとしての定格出力は表2.3に示した通り、2.3kW程度である。この出力ではモータ単体による車両駆動は困難である。従って、加速時のトルクアシスト、並びに減速時の電力回生に使用されるシステムとなっており、このシステムは通常のハイブリッドシステムに対して「マイルドハイブリッドシステム」と呼ばれている。スズキ自動車のマイルドハイブリッドシステムの電気システム概要を図2.1に示す。


12V電源は従来の鉛蓄電池に追加して同じ12Vのリチウムイオンバッテリ(SCiB:東芝製)を並列接続して大容量化、並びに高速応答対応させている。このマイルドハイブリッドシステムに搭載されるM/G機構はISG(Integrated Starter Generator)と呼ばれていることからも分かるとおり、モータ機能は基本的にスタータとしての性能に期待されている。通常のスタータは速度ゼロ付近での始動しかできないが、今回採用されたISGは13km/h条件での始動が可能となっており、アイドリングストップ期間を多く確保できることから、燃費改善が見込める。この12V電源マイルドハイブリッドシステムはスズキ自動車に特有のものであり、従来の内燃式機構方式のモデルと比較しておよそ10%の燃費改善を実現可能である。


【参考文献】
(1)BMW,(https://www.bmw.co.jp/ja/)
(2)VOLVO,(http://www.volvocars.com/jp)
(3)フォルクスワーゲン,(http://www.volkswagen.co.jp/ja.html)
(4)メルセデス・ベンツ,(https://www.mercedes-benz.co.jp/)
(5)ポルシェ,(https://www.porsche.com/japan/)
(6)トヨタ自動車,(https://toyota.jp/)
(7)本田技研工業,(http://www.honda.co.jp/)
(8)日産自動車,(http://www.nissan.co.jp/)
(9)マツダ,(http://www.mazda.co.jp/)
(10)スズキ自動車,(http://www.suzuki.co.jp/)
(11)自動車技術,自動車技術会,Vol. 71 No. 8, 2017.
(12)山本,自動車用48V電源システム 欧州勢の思惑と日本企業が目指すべき技術開発の方向性,サイエンス&テクノロジー株式会社,ISBN978-4-86428-143-0,2016年9月28日刊行.



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2021年7月13日火曜日

【技術読み物】ハイブリッドシステム技術進化の歴史(その2)



※ 本稿は【技術読み物】ハイブリッドシステム技術進化の歴史(その1)の続き。


1.2 初代プリウスの登場

 <1.2.3 世界初の量産ハイブリッド車>  先に初代プリウスは“世界初の量産ハイブリッド自家用車”と記載した。これは余り知られていないが、“世界初の量産ハイブリッド車”は初代プリウスではない。実は1994年、日野自動車からHIMRと名打った大型バスが販売された。このバスこそ、世界初の量産ハイブリッド車である。図1.5にその外観写真を示す。HIMRは“ハイエムアール”と呼び、「Hybrid Inverter Controlled Motor & Retarder System」の頭文字を取った略称である。HIMRバスの搭載エンジンの最大出力は240PS/2500rp、最大トルクは735N・m/1500rpmであり排気量は7961ccとなる。ここに三相交流誘導機(30kW)を設置することで、この誘導機が加速時のトルクアシストと減速時の電力回生を行い、それらの電力の融通を大容量バッテリにより管轄する、現在の一般的なハイブリッドシステムの仕組みを、このHIMRバスは既に具現化していた。このハイブリッドシステムは後にパラレルハイブリッドシステムと呼ばれ、欧州自動車メーカやホンダを始めとする自動車メーカに広く採用されている。


 パラレルハイブリッドシステムのシステム概念図を図1.6に示す。このシステムでは、内燃式機構(エンジン)動力による回転軸と同軸上にモータを配置し、その回転に重畳させる形で電気モータの駆動を行う形である。もちろん、電気モータ駆動力はギアを介して内燃式機構動力に介在する手法を採用することもあるが、基本的な概念は同じである。システム構成としては非常にシンプルであり、低コストでのハイブリッドシステム導入が可能となる。このシステムでは内燃式機構の動力と、電力によるモータ動力を制御により同調させる構成となっており、内燃式機構の“トルクアシスト”の意味合いが強い。電気動力は内燃式機構の補助的な位置付けの場合、このパラレルハイブリッドシステムが採用されることが多い。後述する2代目プリウス以降のハイブリッドシステムは、電気モータでの駆動を積極的に採用する方式であり、パラレルハイブリッドシステムと比較して議論されることが多い。


 話をHIMRバスに戻す。このHIMRバスは12V鉛蓄電池を25個も使用することで、重量増加、並びに乗車定員の削減を余儀なくされており、ハイブリッドシステムのポテンシャルを最大限に発揮するためには、初代プリウスに搭載される大容量ニッケル水素バッテリの登場を待つこととなる。2001年1月に販売開始されたHIMRバスから名称を変更した「ハイブリッドバス」には、プリウスに搭載された、より高電力密度性能が高い大容量ニッケル水素バッテリを4台分搭載することで、前述の問題点を払拭している。


 <1.2.4 トヨタ自動車初の量産ハイブリッド車>
 初代プリウスの販売開始から遡ること4ヶ月。プリウスの販売年である1997年と同年3月、トヨタ自動車からトヨタ自動車初となる量産ハイブリッド車が販売された。コースターハイブリッドEVである。図1.7にその外観を示す。その名前はEV(Electric Vehicle)の言葉を冠しているが、その諸元を確認すると1500ccの5E-FE型エンジンを搭載していることが分かる(1)。従って、このコースターハイブリッドEVは厳密にはEVとは言えず、ハイブリッド車に分類される。


 このコースターハイブリッドEVが持つ特殊な動力機構は、後のシリーズハイブリッドシステムと呼ばれ、2016年下期に販売台数がコンパクトセグメント(1600cc以下の小型・普通乗用車)1位となった日産ノート(e-POWER)の機構と同じシステムである。まずコースターハイブリッドEVの動力系における諸元表を表1.2に示す。動力を司る主要コンポーネントとして、発電用ガソリンエンジン、三相発電機、M/G機構(三相交流誘導機)、大容量バッテリが挙げられる。これらの動力系コンポーネントの配置図を、図1.8に示す。このシリーズハイブリッドシステムにおいて重要な点は、内燃式機構であるエンジンは車両駆動に直接関与しない。図1.6に示すように、エンジン動力は発電機の発電用の回転にのみ利用される。ここで発電した電力は、大容量バッテリへ充電され、加速時、巡航時における車両駆動のためのM/G機構用動力に使用される。従って、バッテリ以降の車両駆動へのエネルギーの流れを見ると、あたかも電気自動車の様に振る舞っていることが分かる。これが、コースターハイブリッドEVがあえて“EV”とした理由である。後にGM(General Motors)社が2011年モデルとしてシボレー・ボルトを発表した際、内燃式機構を搭載しているにも関わらず、“完全な”EVとして発表していたが(7)、このシボレー・ボルトもシリーズハイブリッドシステムを搭載しており、自動車メーカにとってもEV色の強い方式であると言えるエピソードである。



 <1.2.5 初代プリウス>
 1975年の東京モーターショーにおけるセンチュリーのハイブリッドプロトタイプ車の試みから22年の胎動を経て、トヨタ自動車からその後世界を席巻するハイブリッド車が販売開始される。初代プリウスの登場である。トヨタ自動車は、この車の登場を今後のハイブリッド戦略の起点とし、現在の全方位ハイブリッド化の商業戦略へと続いている。その社風を裏付けるように、現在のトヨタ自動車の会長である内山田竹志氏は、この初代プリウスの開発責任者(チーフエンジニア)であった。
 この初代プリウスの特徴としては全く新しいハイブリッドシステムであるTHS (Toyota Hybrid System)の採用と、徹底した空気抵抗低減技術の導入である。この2つの技術の導入により、28.0km/L(10・15モード走行)という当時の同クラス車種と比較して圧倒的な高燃費性能を獲得するに至った(3)。また、初代プリウスの最終モデルでは永久磁石式同期モータの改良等により31.0km/L(10・15モード走行)と、同クラス車種では初めて1リットルあたり30kmを超える燃費性能に到達した(3)。
 新しいハイブリッドシステムであるTHSの説明は別稿に譲るが、ここでは初代プリウスで採用された低CD(Coefficient of Drag:空気抵抗削減係数)値獲得のための新技術について紹介する。図1.9に初代プリウスの外観写真を示す。この外観には2つの新技術が施されている。一つは、当時としては特徴的なボンネット形状である。このボンネット前方部はなだらかにフロントグリル側へ繋がっており、近未来的なデザインのみならず、空気抵抗の大幅な削減に成功している。さらに特徴的な技術としてアルミホイル部への対策が挙げられる。初代プリウスでは軽量化のため標準仕様でアルミホイルを装備しているが、このアルミホイルの外側に樹脂カバーを取り付けて、進行方向に対してタイヤサイド部をフラット化させることで、空気抵抗低減化を実現している。通常、アルミホイルはレース等での軽量化効果に対するブランド力のため、市販車における装飾品という側面でも普及していたが、初代プリウスでは低CD値獲得という目的のために、あえてアルミホイル部を樹脂カバーで隠すという逆転の発想を具現化している。これらの空気抵抗低減対策により、初代プリウスは0.30というCD値を獲得するに至っている。表1.3に初代プリウスの車両諸元を示している。車両パッケージとしてはプリウス・プロトタイプとほぼ変わらず、そのコンセプトをしっかりと踏襲していることが分かる。ハイブリッドシステムにおけるプロトタイプ車と初代プリウスとの大きな違いについても、別稿にて解説する。


 図1.10に、初代プリウスのインパネ写真を示す。トヨタ自動車の特徴的な試みとしてセンターメータの採用がある。初代プリウスは5.8インチマルチインフォメーションディスプレイをセンターコンソール上部に配置することで、運転時の運転者の視線移動距離を著しく削減することに成功しており、従来の車両と比較してメータ表示認識時間が20%短縮されている。また初代プリウスでは、助手席側からのメータの視認性も確保していることも特徴的である。



1.3 初代プリウスの問題点
 初代プリウスは新しいシステムを適用された世界で初めての量産自家用車であったが、ユーザの新システムに対する戸惑いの中でも商用的には成功したと言われている。(モデル末期までは年間1万台を超える販売実績を達成していた。特に販売年の次年度となる1998年には1万8千台を達成した。)特にトヨタ自動車の同クラス車種(同排気量という視点にて指定)である8代目カローラ(1995年〜2002年)の同排気量モデルでは、18.8km/Lという燃費性能であり、このカローラに対して初代プリウスは50万円程度の販売価格設定(215万円)だったため、国内市場では非常に好意的に受け入れられた。しかしながら、初代プリウスには特有の問題点をいくつか抱えていた。これらの問題点は採用したハイブリッドシステムの限界に起因しており、それでも初代プリウスはユーザの声を受ける形で改良、進化を遂げてきたが、結果として根本的な懸念払拭には2代目プリウス以降の開発にフィードバックされることとなる。具体的な初代プリウスの問題点は下記の通りである。

 1)加速時のトルク不足
 2)高速走行時における低燃費状態
 3)回生ブレーキや電動パワーステアリング(EPS)の不自然さ

この中で3)の問題に関しては、人間工学的な視点からの開発も必要となっており、別枠での議論となってしまうが、1)、2)に関しては、新しいハイブリッドシステムの採用により、その対策が可能となる。前者2つの問題点に係る大きな要因は、今回搭載しているニッケル水素バッテリの特性に端を発している。具体的には0℃におけるニッケル水素バッテリの出力密度(W/kg)に対して40℃条件における出力密度は2.5倍となる(8)。逆にこのニッケル水素バッテリの出力特性は温度に大きく依存し、低温時には出力特性が劣化してしまい、結果として車両加速時におけるトルク不足に繋がっていた。
 この対策を実現するため、2代目プリウスにはTHS-II (Toyota Hybrid System II)と呼ばれる新しいハイブリッドシステムが適用された。このシステム概要については前述のTHS (Toyota Hybrid System)と併せて別稿にて図説を行う。


【参考文献】
(1)トヨタ自動車75年誌, (https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/index.html)
(2)“EV・ハイブリッド車用駆動システム,” AISIN AW ENVIRONMENTAL REPORT 2011,pp. 14-16,2011.
(3)トヨタ自動車ホームページ,(https://toyota.jp/)
(4)黒川,“排ガスゼロ車普及に8州が集結,” ジェトロセンサー,2014年3月号,pp. 58-59,2014.
(5)山本,自動車用48V電源システム 欧州勢の思惑と日本企業が目指すべき技術開発の方向性,サイエンス&テクノロジー株式会社,ISBN978-4-86428-143-0,2016年9月28日刊行.



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【技術読み物】ハイブリッドシステム技術進化の歴史(その1)



1.1 ハイブリッド車の黎明期
 1997年12月の該当車種の販売開始から時計の針を巻き戻すこと2年。1995年11月に幕張メッセにて開催された第31回東京モーターショーに、トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)から歴史的な車種となるプロトタイプ車が展示された。後にプリウスと呼ばれる参考出展車である(図1.1)。このプロトタイプ車の開発コンセプトは「人と地球にとって快適であること」。その思想に違わず、20年の進化を経て、このプロトタイプ車は量産ハイブリッド車の中で初めて、その燃費性能が40km/Lの壁を越えることとなる。


 1995年に展示されたこのコンセプト車は、通常の内燃式機構をベースとした車両と機構が異なっていた。すなわち、内燃式機構(エンジン)としてトヨタ製1.5ℓDOHC直噴ガソリンエンジン・TOYOTA D-4(1AZ-FSE型改)を搭載し、その駆動はCVT(Continuous Variable Transmission・ベルト式無段変速機)を介して行われるが、その駆動ラインとは別に、これまで量産車両において見ることがなかった機構を具備していた。大容量モータ/ジェネレータ(M/G)である。これ以前の自動車は主電気系ラインには基本的にジェネレータ(発電機)のみを搭載しており、モータの搭載はエアコン用コンプレッサやパワーウィンドウ等の補機類の駆動に留まっていた。このプリウス・プロトタイプは搭載したジェネレータにモータとしての機能も持たせ、車両駆動に直接関与させていた。このM/G機構はECU(Electronic Control Unit)により内燃式機構との協調制御を行うことで、結果として内燃式機構の負担を減らし、高燃費性能の獲得を目的としていた。そして、その駆動動力源は大容量キャパシタが担う。この大容量キャパシタに蓄積された電力により大容量M/G機構のモータは車両駆動をアシストする仕組みである。また、車両減速時にはM/G機構はジェネレータとして機能し、大容量キャパシタへ充電を行う。この電力は前述の車両駆動への使用はもちろんのこと、信号停止等の車両停車時におけるアイドリングストップのサポートも行う。すなわち、車両停止時にもエアコン、オーディオ、ヘッドライト等は継続駆動しているため、これらの補機類に電力供給を持続させる必要があるが、従来の12V鉛蓄電池では負担が大きく、その寿命を著しく短くしてしまう可能性がある。その懸念払拭のため、このプロトタイプ車の機構は、新しい大容量バッテリにおける電気システムのサポートを司るシステムの提案となっている。トヨタはこのシステム採用により、同クラス車の約2倍の燃費となる30km/L(10・15モード走行)実現を目標に掲げていた。


 当時の東京モーターショーでは、この新しい電気系システムに注目が集まっていたが、実は歴代プリウスに脈々と受け継がれる車両設計思想は、もう一つの視点にもある。プリウス・プロトタイプが掲げた「人と地球にとって快適であること」という車両開発コンセプトを受ける形で、新しい電気システムだけでなく、電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)、エアコン用コンプレッサの電動化、RSPP(新リサイクル防音材)の採用、高性能熱線吸収ガラス・着色樹脂を使った無塗装バンパー&サイドモール等の技術導入が成されていたが、本書後章で解説する歴代プリウスが受け継ぐ“もう一つの視点”に係る新技術の導入にも留意する必要がある。それが、低転がり抵抗タイヤと低CD値実現空力ボディである。このプリウス・プロトタイプは、電気システムとこの“もう一つの視点”の複合要素の組み合わせにより、結果として30km/L(10・15モード走行)の高燃費の実現を目指す、全く新しいコンセプト車なのである。


1.2 初代プリウスの登場
 <1.2.1 初代プリウスのコンセプト>
 プリウスの語源をご存じであろうか。英字表記のPRIUSは実はラテン語であり「〜に先駆けて」という意味を示している(1)。また、トヨタ自動車はPRIUSの各文字に意味を込め、販売車両に思想を装飾している。(具体的には、PはPresence(存在感)、RはRadical(技術的革新)、IはIdeal(理想)、UはUnity(調和)、SはSophisticate(洗練)を意味する。)この思想を具現化する形で、初代プリウスは1997年12月に世界で初めてとなる量産ハイブリッド自家用車としてトヨタ自動車から世に送り出された(1)。ハイブリッドという言葉も、この初代プリウスから使用されており、プリウス・プロトタイプ発表時では、内燃式機構をモータでアシストする「TOYOTA EMS(Energy Management System)」という新システムとして呼称されていた。この初代プリウスの登場は、奇しくも京都市の国立京都国際会館で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議における京都議定書の採択と時を同じくしている。(京都議定書の採択は1997年12月11日であり、初代プリウスの販売は同年12月10日。)
 初代プリウスのコンセプトである「21世紀に間に合いました」の言葉に示される通り、世界初の量産ハイブリッド車を2000年を待たずして販売することができたことが、その後のトヨタ自動車の全方位ハイブリッド化戦略に直結していく。

 <1.2.2 トヨタ自動車の電動化への挑戦の歴史>
 トヨタ自動車の電動化技術の歴史は意外に長い。トヨタ自動車初のハイブリッド車の提案は1975年の東京モーターショーにまで遡る。提案プロトタイプ車の対象となったベース車両はトヨタ自動車の最上位車種に位置するセンチュリーである。明治100年、豊田佐吉翁生誕100年を記念して名づけられたこの車両には、発電用ガスタービンが新たに搭載され、その電力源により前輪の駆動をモータが担っていた。ベース車両のセンチュリーはトヨタ自動車の名機5V-EU型(V型8気OHV・3,994cc)の動力を後輪駆動させる大型自家用車である(3)。図1.2にその外観を示す。すなわち、このセンチュリー・ハイブリッド車両は、後輪は内燃式機構(エンジン)による駆動であり、前輪は前述のガスタービン発電動力によるモータ駆動という、まさにハイブリッドという言葉に相応しいシステムを配備されていた。

 トヨタ自動車の電動化技術の歴史は、トヨタ自動車の電池開発の歴史でもある。1992年にトヨタ自動車はEV開発部を立ち上げ、1993年には「クラウン・マジェスタEV」を販売している(2)。販売は官公庁等に留まっていたが、その試みは1900台の売り上げに成功したトヨタ自動車初の本格的量産電気自動車となる「RAV4 EV」の開発へと繋がっていく。
 2012年、カリフォルニア州は同州大気資源局(CARB:California Air Resources Board)が提案するZEV(Zero Emission Vehicle)規制に署名したことで、自動車業界に激震が走った。この法案は、カリフォルニア州で年間6万台以上の自動車販売実績があるメーカ6社に対して適用したものであり、その販売台数の一定割合をZEV(Zero Emission Vehicle)としなければならない、という内容である。(具体的には1998年から販売台数の2%をZEVの対象とする。)この法案におけるZEVは電気自動車と燃料電池車を示し、対象6社はクライスラー、フォード、GM、ホンダ、日産、トヨタを指す。カリフォルニア州は1990年にはLEV規制(Low Emission Vehicle Regulations:低公害車規制)を既に施行しており、その対象車両の環境規制が寄り強まった形となっている。この法案を受けて、同年、トヨタ自動車は燃料電池車のプロジェクトも立ち上げているが、まだ燃料電池の価格、並びにインフラ配備に課題が山積みであり、まずは電気自動車の量産に踏み切ることとなった。
 その重責を担ったのが、前述のRAV4 EVである。その外観を図1.3に示す。この車両はニッケル水素バッテリ(95Ah、12V×24個)を搭載しており、動力は永久磁石式同期電動機(45kW、165Nm)の駆動により最高速度125km/h、一充電走行距離215km(10・15モード)の性能を達成している。このRAV4 EVの車両販売実績としては1900台程度(うち1500台は米国販売)であり商用的には成功したと言い難いが、このニッケル水素バッテリ搭載車両の量産経験が、後の初代プリウスの成功への伏線となっている。


 こういったトヨタ自動車が米国の東風に揉まれている同時期、トヨタ自動車社内では2つの次世代自動車への模索が始まっていた。1つは後述する初代プリウスに始まるハイブリッド車であり、もう1つはマイルドハイブリッド車の開発が進められていた。その成果として、2001年8月、トヨタから当時、新しいハイブリッドシステムを搭載した車が発表された。クラウン・マイルドハイブリッドである。図1.4にその外観とシステム写真を示す。このマイルドハイブリッドシステムはマイナーチェンジ時に導入された新機構であるが、同じクラウンである従来の3,000ccエンジン搭載車両が11.4km/Lの燃費性能であったのに対して、13km/Lと約14%の燃費改善効果を実現している。システム概要としては、12V鉛蓄電池に対して36Vの高圧バッテリを搭載し、その高圧バッテリに大容量M/G機構による力行と回生により、前述のプリウス・プロトタイプと同じように加速時のモータ駆動によるトルクアシスト動作、減速時の電力回生によるアイドリングストップ期間の延長化による燃費改善効果を実現している。このクラウン・マイルドハイブリッドの車両重量は1,670kgである。これは従来モデルのロイヤルサルーンGと比較して車両重量は60kg重くなっている。この車両重量増加分は、新しく追加されたマイルドハイブリッドシステムの重量を意味する。この重量の大きな割合を占めているのが、36Vバッテリである。この高圧バッテリは、次世代電池の搭載に研究開発が間に合わず、結局、鉛蓄電池を搭載しての量産となった。このことで重量増加による燃費改善効果の阻害が尾を引き、商用的な成功を収めることができなかった。この経験からトヨタ自動車は彼等の戦略について、プリウスが持つハイブリッドシステムへ大きく舵を切っていくこととなる。


 余談ではあるが、クラウン・マイルドハイブリッドに搭載された36V鉛蓄電池を48Vリチウムイオン電池に置き換えた方式が、2011年6月にドイツで開催された第15回Automobil-Elektronik CongressにおいてVW(Volkswagen)、ポルシェ、アウディ、ダイムラー、BMWの5社が中長期的な協力体制にて開発すると発表した48V電源システムである(5)。そういった意味では、クラウン・マイルドハイブリッドは2016年3月に世界で初めての48V電源システム車として販売開始されたアウディSQ7 TDIへの源流とも言える。


【参考文献】
(1)トヨタ自動車75年誌, (https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/index.html)
(2)“EV・ハイブリッド車用駆動システム,” AISIN AW ENVIRONMENTAL REPORT 2011,pp. 14-16,2011.
(3)トヨタ自動車ホームページ,(https://toyota.jp/)
(4)黒川,“排ガスゼロ車普及に8州が集結,” ジェトロセンサー,2014年3月号,pp. 58-59,2014.
(5)山本,自動車用48V電源システム 欧州勢の思惑と日本企業が目指すべき技術開発の方向性,サイエンス&テクノロジー株式会社,ISBN978-4-86428-143-0,2016年9月28日刊行.


※ 【技術読み物】ハイブリッドシステム技術進化の歴史(その1)に続く。



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2021年7月10日土曜日

宏光MINI EV(五菱製)の分解作業について



6月末から名古屋大学C-TECsに展示させて頂いております宏光MINI EV(五菱製)ですが、学内の規定により学内においても走行試験が難しい状況となりました。

つきましては、8月くらいから宏光MINI EVの分解作業に入りたいと思います。
※宏光MINI EVの概要は下記動画ご参照。



本展示をサポート頂いている日本能率協会様のご都合に合わせますが、このEVの分解作業は、撮影をしながらほぼ一日で一気に分解していく予定です。

ご興味のある方は分解作業にもご参加可能ですので、前もってお知らせくださいませ。
分解日時は本ブログにて情報展開致します。
(人数制限有り、コロナウイルス対策条件有り、自動車、車両整備、電気系等の専門性の高さを優先させて頂く可能性有り、となります。)

中国の”赤船”と言われる宏光MINI EVの技術現在地を、一緒にチェックしていきましょう!


【活動のご紹介】
    ■テスラ・モデル3インバータ解析動画




    ■研究室へのアクセス

    新研究棟への道案内は、こちらの投稿を参考にされてください。

    本山駅からタクシーで「東山公園テニスセンター」前のミニストップというコンビニを目指して、C-TECsの裏手に来られた方が、暑い中、歩かれる距離が短くて良いかと思います。
    本山駅のタクシー乗り場にタクシーが居ない場合は「つばめタクシー(052-203-1212)」にて呼ばれれば直ぐに来るはずです。


    ■出版物

  1. 「パワーエレクトロニクス回路における小型・高効率設計法 ~昇圧チョッパから結合インダクタの設計まで~ (設計技術シリーズ)」、科学情報出版
    アマゾンサイトはこちら
    紹介ページ<http://masayamamoto.blogspot.jp/2014/11/blog-post_12.html

  2. 「テスラ「モデル3/モデルS」徹底分解【インバーター/モーター編】」、日経BP社
    書籍紹介ページはこちら
    紹介ページ<http://nagoyapelab.blogspot.com/2020/03/3s.html

    ■講演予定

  1. 7月16日:ワイドギャップ半導体学会 第2回研究会、ワイドギャップ半導体学会様主催
    ※ワイドバンドギャップパワー半導体を応用視点で色々なメンバーのご意見を聞くことができます!
    紹介ページ<http://nagoyapelab.blogspot.com/2021/07/716.html

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