2021年9月16日木曜日

【技術読み物】4代目プリウス用PCU分解解説(その4)



 <3.2.3 PCU(4代目プリウス)の分解解説:中層部>
 前述した中層部外観から実際に内部構造を確認するためには、上下合わさった冷却用アルミケースを開く必要がある。図3.13に確認できるアルミケース部は、丁度、弁当箱の蓋の状態で中層部構成部品に覆いかぶさっており、この“蓋”を開いて弁当箱の中身を見た写真が、図3.14となる。写真上部が蓋を裏側から見た構成部品、写真下部が弁当箱の中身となり、蓋の部品と弁当箱の部品が、隙間に重なり合って組み合わされる中層部を構成する形となっている。


 4代目プリウス用PCUにおいて、最も特徴的な部分がこの中層部であり、PCUの小型化に大きく寄与している階層となる。その最も大きな役割を果たしているのが電流センサである。4代目プリウスでは図3.6に示すように合計7個の電流センサを用いている。図3.15に三相インバータ・三相整流器入出力端子上部に設置されている旭化成製電流センサの外観を示す。この写真にある通り、7個のホールセンサと電流センサICにより、各部の電流検出を行っている。これに対して3代目プリウスでは、インバータ出力側の3個と整流器入力側の3個の合計6個の電流センサでPCUの制御を行っていた。4代目プリウスにおいて電流センサを1個追加した効果として、下記の2点が挙げられる。

(1) 昇圧チョッパ、三相インバータ、三相整流器を通過する全ての電力を監視することができるようになったため、定常動作条件における平滑フィルムキャパシタの最適化設計が可能となった
(2) 昇圧チョッパの制御に対し電流フィードバックを加えたことで高速応答化を実現し、過渡応答対応の平滑フィルムキャパシタ容量を最小化できた


この様に、電流センサの導入により、PCUの体積の多くを占める平滑フィルムキャパシタの小型化を実現していることが分かる。4代目プリウスではこの昇圧チョッパにおけるインダクタ電流の検出方法も特徴的となっており、図3.16の様に、直流成分と交流成分を同時に持つインダクタ電流に対して、平均電流のみを読み取っている。しかしながら、昇圧チョッパにおいてはインダクタの磁気飽和に対する保護の視点からピーク電流を観測する必要があるが、4代目プリウスでは、昇圧チョッパのピーク電流を、観測ではなく平均電流値とIGBTのターンオン時間から予測計算している。また、昇圧チョッパ制御において、3代目プリウスでは出力電圧一定制御を行う電圧モード制御を行っていたが、4代目プリウスでは電流センサを導入したことで電流値の制御要素のフィードバックが可能となり、電流モード制御の採用が実現し、昇圧チョッパの応答時間を、3代目プリウスの500μsから4代目の200μsへと大幅に削減することに成功している。これにより必要出力キャパシタ容量を削減し、平滑フィルムキャパシタの大幅な小型化(3代目:888μF → 4代目:471μF)を実現した。平滑フィルムキャパシタについては、3代目プリウスも4代目プリウスも双方、パナソニック製のものを採用している。



図3.17には、同じくパナソニック製平滑フィルムキャパシタと、昇圧チョッパ用インダクタの外観を示す。この平滑フィルムキャパシタは、昇圧チョッパの入力段におけるキャパシタで図3.6ではCiにあたる。この平滑フィルムキャパシタは前述のフィルムキャパシタとは異なり、印加電圧は大容量バッテリ電圧の200Vと、高くない。よって昇圧チョッパ後段の600Vを印加する平滑フィルムキャパシタと比較して、より誘電体の膜厚を薄くすることで小型化を実現している。

また、昇圧チョッパ用インダクタは、Fe-Si圧粉磁心であり、コストと磁束密度に性能を絞っていることが分かる。本件についても次章にて後述するが、4代目プリウスではこのインダクタは巻線内部においてギャップを1つ(コア1周あたり2つ)を確保しており、インダクタンス値は240μFである。コストダウンのためと考えられるが、3代目プリウスの昇圧チョッパ用インダクタは、全て樹脂封止されていたが、この4代目プリウス用では、コア鉄心が露出している。霧吹きで水を付けて、1ヶ月程度放置したが、表面は錆びてきたが性能には問題は発生しなかった。よって、このコアを露出させた措置も、4代目プリウスにおけるコストダウン化の正常進化であると言えよう。
次に、下層部の図説にも少し被る部分があるが、PCUの冷却方法について解説する。図3.18に4代目プリウス用PCUの冷却配管の様子を示す。このPCUは水冷方式であり、PCUから出ている配管パイプを冷却水が流れて各構成部品の冷却を担う。まず、冷却水は下層部の絶縁DC-DCコンバータを冷やすため、まず図3.18における配管パイプ①DC-DCコンバータ用冷却配管ライン(入力)から流入する。そして絶縁DC-DCコンバータの冷却を終えた冷却水は② DC-DCコンバータ用冷却配管ライン(出力)から流出する。その後、図3.7の配管ライン接続管を通って、③ 主パワーライン用冷却配管ライン(入力)へ流入する。この配管ライン接続管は、図3.18では取り外してあるが、実際には樹脂パイプによって図3.7の様に②の配管と③の配管を接続している。③ 主パワーライン用冷却配管ライン(入力)に流入した冷却水は両面冷却パワーカードと呼ばれる新しい冷却方式により、主パワーラインに使用される昇圧チョッパ、三相インバータ、三相整流器におけるパワー半導体の冷却を行う。



図3.19に両面冷却パワーカードの実際の写真を示す。冷却水は③ 主パワーライン用冷却配管ライン(入力)に流入した後、④ 主パワーライン用冷却配管ライン(出力)から流出していくが、その間、図の両面冷却器内部を通過しながら、パワー半導体の冷却を行っている。この冷却器が両面冷却パワーカードと呼ばれているのは、パワー半導体を冷却器によりサンドウィッチ構造で挟み込んでいることに端を発する。実際に図3.19を確認すると、冷却器に黒いパワー半導体が挟まっていることが分かるであろう。サンドウィッチをイメージすると分かりやすいが、サンドウィッチのパンの部分が冷却器であり、挟まっているハムの部分がパワー半導体である。このパンの部分を冷却水が流れることで、効果的にハムであるパワー半導体を両面から冷却することができる。ちなみに、昇圧チョッパ用インダクタは図3.19の点線枠部分にマウントされており、アルミ冷却フレームに直接樹脂を介して接続されている。従って、前述の絶縁DC-DCコンバータの冷却時に同時にインダクタも冷却していることが分かる。図3.17において昇圧チョッパ用インダクタの巻線が露出しているが、これは熱源である巻線部を効果的に冷却させるため、あえてこの様な構造設計がなされていると考えられる。


【参考文献】
(1)トヨタ自動車ホームページ,(https://toyota.jp/)
(2)山本,自動車用48V電源システム 欧州勢の思惑と日本企業が目指すべき技術開発の方向性,サイエンス&テクノロジー株式会社,ISBN978-4-86428-143-0,2016年9月28日刊行.
(3)小澤,“新型プリウス向けDC-DCコンバータの熱設計,”テクノフロンティア2016技術シンポジウム,熱設計・対策技術シンポジウム資料,F6-2-1~F6-2-21,2016.



※ 【技術読み物】4代目プリウス用PCU分解解説(その5)に続く。



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