2021年9月16日木曜日
【技術読み物】4代目プリウス用PCU分解解説(その2)
3.2 PCU(4代目プリウス)の分解解説
<3.2.1 PCU(4代目プリウス)の概要>
まず、これから分解する4代目プリウス用PCUの中に収められている電気系システムを確認していく。図3.5に、4代目プリウスにおける電気系システム模式図を示す。この電気系システムは、大きく2つに分割される。1つは、車両駆動に直接関与する主駆動電源ラインであり、量産ハイブリッド車として電気駆動により車両駆動を管理させた最初の車であるプリウスのアイデンティティは、この主駆動電源ラインにあると言える。もう1つは、補機用電源ラインとなる。これはプリウスに搭載される200V系バッテリ(202V:ニッケル水素バッテリ、207V:リチウムイオンバッテリ)と補機類(オーディオ機器、ライト類、パワーウィンドウ等)への電力供給を担う12V鉛蓄電池を仲介する電源ラインである。ここで仲介、と記載したが、実質的には電力方向としては、200V系バッテリから12V鉛蓄電池への電力供給方向のみ、となる。この理由として、プリウスの発電機電力は200V系バッテリに回生されていること、そして、プリウスは積極的にEV走行モード(特に発進時)を採用していることが挙げられる。特にEV走行モード時において、運転者にとっての重要な補機装置はパワーステアリングである。プリウスはトヨタ自動車として初めて電動パワーステアリング(EPS : Electric Power Steering)を採用した車であるが、このEPSだけで1〜2kWの出力を要求する。よってEV走行モード時では、この電気的な負荷が12V鉛蓄電池にぶら下がっているため、他の負荷への供給も担う鉛蓄電池の負担が大きくなってしまう。この負担低減のため、大容量バッテリから鉛蓄電池への電源供給を行うことで、スタンドアローンの車両内部において、安定した電源ラインの構築を実現している。
ここで、PCU内部に収められている電気機構としては、主駆動電源ラインにおける昇圧チョッパと三相インバータ(三相整流器含)、補機類用電源ラインの絶縁DC-DCコンバータとなる。実際には模式図に示した昇圧チョッパと三相インバータは図3.6に示すような等価回路となっており、チョッパはインダクタやキャパシタの受動素子と2つのパワー半導体、三相インバータは6つのパワー半導体、三相整流器も6つのパワー半導体から構成される。
4代目プリウス用PCUの外観を図3.7に示す。本書では、この4代目プリウス用PCUを3つの階層に分けて図説を行う。3つの階層は図3.5に示してある通りであるが、具体的には、上層部(第1層)は、PCUの制御部を司る制御基板部であり、中層部(第2層)はパワー駆動部である昇圧チョッパとインバータ、整流器を内蔵している。下層部(第3層)は大容量バッテリと補機用電源である12V鉛蓄電池を仲介するDC-DCコンバータとその冷却機構が収まる。
PCU全体としては、3代目プリウス用PCUが12.5Lの体積で重量は13.5kgであったのに対して、4代目では体積は8.4Lに、重量は11.9kgへと大幅に削減されている。ただし、4代目プリウス用PCUの出力自体は、最大電圧が3代目の650Vから600Vへ抑制され、最大電流も180Armsから170Armsへ変更されている。
次に、PCUを分解した全容を図3.8に示す。一番左側がPCUのアルミ冷却ケースであり、そこから順番に上層部のECUとパワー半導体(プリウスはIGBT : Insulated Gate Bipolar Transistorを採用)駆動回路の基板、そして中層部を構成するパワー半導体群と、昇圧チョッパ用インダクタ、キャパシタが並んでいる。さらに下層部においては、図3.8のインダクタがマウントされているアルミケースの裏側に冷却のため貼り付けられる形で絶縁DC-DCコンバータが設置されている。昇圧チョッパやIGBT群から上側(上層部と中層部)はデンソー製、絶縁DC-DCコンバータは豊田自動織機製となる。3代目プリウス用PCUからこの4代目プリウス用PCUへの進化のポイントとして、
(1) 電流センサを1個追加することでフィルムキャパシタを小型化を実現
(2) 絶縁DC-DCコンバータを基板実装化して小型化を実現
(3) IGBT冷却について両面冷却方式を採用することで小型化を実現
という3点が挙げられるが、詳細は後述していく。今、上層部から順番にPCU分解の図説を仔細に行う。
【参考文献】
(1)トヨタ自動車ホームページ,(https://toyota.jp/)
(2)山本,自動車用48V電源システム 欧州勢の思惑と日本企業が目指すべき技術開発の方向性,サイエンス&テクノロジー株式会社,ISBN978-4-86428-143-0,2016年9月28日刊行.
(3)小澤,“新型プリウス向けDC-DCコンバータの熱設計,”テクノフロンティア2016技術シンポジウム,熱設計・対策技術シンポジウム資料,F6-2-1~F6-2-21,2016.
※ 【技術読み物】4代目プリウス用PCU分解解説(その3)に続く。
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