2021年9月16日木曜日

【技術読み物】4代目プリウス用PCU分解解説(その5)



 <3.2.4 PCU(4代目プリウス)の分解解説:下層部>
 欧州の自動車販売に係る二酸化炭素排出量規制に対し、2011年夏には欧州の自動車メーカ5社(VW、ポルシェ、アウディ、ダイムラー、BMW)は協定による48V化に際した業界標準規格であるLV148を策定し、48V化技術に対する研究開発の集中を図った。さらに、業界標準規格を受けて、前述の通りVDA(ドイツ自動車工業会)が品質管理規格「VDA320」を策定、さらに安全に関して国連欧州経済委員会(UNECE)において、UN規則No.100を採択しているすべての国で、2013年7月15日以降に新規認可を取得する車両および再充電可能エネルギー貯蔵システム(REESS)に「電気安全に関する要求事項(UN/ECE R100)」を義務付けられることとなった。具体的には、絶縁に対する安全性に規制をかけた形である(2)。すなわち、欧州サイドより、48V以上の電源については、絶縁対策が必要であるという法的規制を明記されたことを意味する。もちろん、この規制は200V系大容量バッテリを有するプリウスにも適用される。その法的規制を技術面から直接感じることができる装置が、以下に図説を行う絶縁DC-DCコンバータである。
図3.20に2代目プリウスで採用された絶縁DC-DCコンバータの写真を掲載する。2代目の絶縁DC-DCコンバータも豊田自動織機が担当している。また、この絶縁DC-DCコンバータの等価回路図を図3.21に示す。この回路は入力側(1次側)を4つのパワー半導体で構成するフルブリッジDC-DCコンバータとなっている。直列に2つのパワー半導体が接続されている形をブリッジという単位で示し、2つの場合をハーフブリッジ、このハーフブリッジが2つ並列化した回路をフルブリッジと呼ぶ。ハーフブリッジ型は、低コストであるが出力電圧を入力直流電圧値の半分しか使えないのに対して、フルブリッジ型は入力直流電圧値をそのまま出力可能であるが、コストアップを招く。プリウスの進化に伴う要求としては、PCUの低コスト化と部品占有面積の低減化であったために、パワー半導体を2つ程度の使用に縛られ、後述する4代目プリウス用絶縁DC-DCコンバータに繋がっていく。図3.20を見ると、部品点数が多く、占有面積が大きくなっていることが分かる。こういった懸念を解消すべく、4代目プリウス用絶縁DC-DCコンバータは、別回路方式を採用した。



図3.22に4代目プリウス用絶縁DC-DCコンバータの外観を示す。この絶縁DC-DCコンバータは、4代目プリウス用PCUの下層部に絶縁DC-DCコンバータ用冷却流路に対して裏側から貼り付けられる形で設置されている。前述のパワー半導体を4つ使用することによる専有面積の問題を払拭するため、この絶縁DC-DCコンバータはアクティブクランプ方式フォワードコンバータの回路を採用し、パワー半導体は、フォワードコンバータのメインスイッチと、アクティブクランプ用の補助スイッチの2つのみ使用することで、小型化を実現している。図3.22のST Microelectronics製MOS-FETの右側(耐圧710V・69A)がフォワードコンバータのメインスイッチであり、左側(耐圧600V・17A)が補助スイッチとなる。これら2つのパワー半導体は、制御基板上のアナログICによって制御が行われる。主パワーラインと異なり、あえてアナログ制御で豊田自動織機がIC化まで内製した理由としては、フォワードコンバータ全体を閉じて開発して、トヨタ側へシステムとして納入したかったという意図がある。汎用マイコン等の使用によるディジタル制御化により、システム下層のフォワードコンバータ構成部品のみに完成車メーカであるトヨタ自動車にその採用を限定されることを恐れ、あえてリスクを背負った形でその技術をシステム全体に留め、今回の成功に繋げている。アナログ制御ICの右手側のコンバータ制御指令用マイコンは、フォワードコンバータ制御の上位層の制御を担当し、主にコンバータとしての走行状態に応じた出力電力等の制御指令を司る。

この絶縁DC-DCコンバータの占有面積は後述する最終システムへの大きな恩恵に寄与しているが、もう一つのアプローチとして、200Vライン側(1次側)に対して高周波トランスを介した後の12Vライン側(2次側)においても、その配慮の跡が見られる。図3.20に2代目プリウス用絶縁DC-DCコンバータの写真を見ると、高周波トランス後段の整流ダイオードブリッジでは、等価回路としては2つのダイオードのみで構成されているにも関わらず、6つのダイオードにより整流器が構成されている。この絶縁DC-DCコンバータではダイオードを3つ並列接続することでそれぞれのダイオード電流を1/3に分流し、熱負担を軽減している。4代目プリウスでは補機類用DC-DCコンバータにおいて、特に熱で問題となるダイオードブリッジ部とトランスコア部における熱対策に独自の技術を導入している(3)。図3.23に、前述の制御基板を取り外した状態での絶縁DC-DCコンバータの外観を示す。この写真から、4代目プリウスでは高周波トランス後段の2次側ダイオードブリッジは、2代目とDC-DCコンバータの出力は変化がないにも関わらず、4個のダイオードのみで構成されていることが分かる。この新しいプリウスのDC-DCコンバータ担当した豊田自動織機は、ダイオードの熱対策に関してダイオードを納めているサンケン電気と共同設計を行っている。具体的には、ダイオードブリッジに使用するダイオードにおいて、従来ではダイオードから冷却用アルミケースまでの熱抵抗が、回路構成上、絶縁確保が必要なため、熱伝導率の低い樹脂板を使用しなければならず、図3.24左図の様に非常に大きくなる問題があった。しかしながら、図3.25に示すように、ダイオードのアノード・カソードを入れ替えることで電流が冷却用アルミケース層に流入することを防ぐことが可能となり、図3.24右図の様に、絶縁に必要であった樹脂板、銅板を廃することで、熱抵抗要素低減構造を実現している。さらに、アノード・カソードを入れ替えることで、絶縁不要で金属スプレッタを冷却可能としている。上記の熱対策変更前と変更後における電気回路で表現した概念図を図3.26に示す。この様な対策により、ダイオードブリッジにおける部品占有面積を削減し、フォワードコンバータ全体のシステム小型化に貢献している。




また、この4代目プリウス用絶縁DC-DCコンバータは、基板実装型を構成しており、具体的には、基板によるプリント配線に対して部品を挟み込む形で、全ての電気回路システムを構成している。図3.23におけるトランスやインダクタは、基板を挟み込む形で構成されており、トランス、インダクタの上側コアを取り外した状態が、図3.27の左側図となる。この状態で基板上に見えている配線は、2次側配線となっており、12Vラインの電力導通を担う。これに対して、基板を裏返すと200Vラインの配線が確認でき、フォワードコンバータの巻数比は1次側:2次側は4:1となっている。こういった基板実装型の電力変換器は、車載応用時に下記の2つの問題に直面する。

(1) パワーライン基板の熱サイクルによる反りによる信頼性の低下
(2) 量産時の組み付け時(ボルト締め等)による反りによる信頼性の低下

 これらの問題点を払拭すべく、この基板実装型コンバータにおける基板の寿命設計が非常に高い技術ハードルを乗り越えていくことが完成車メーカへの採用を目指すために肝要であると言える。
また、トランスの冷却についても独自技術を導入している。4代目プリウス用絶縁DC-DCコンバータにおいて、絶縁トランスは前述の通り、配線銅板にて巻線パターンを形成し、さらに高放熱厚銅基板を上下の2つのコアで挟み込んだ構造としている。この様な構造とすることで、巻線部は放熱シートを介してアルミケースで冷却し、高周波トランス用コアや平滑用インダクタは図3.28に示すように、アルミケースに直接接触させることで放熱を実現している。その様子を図3.29に示す。この写真は図3.27の左図状態から、さらに基板を取り外した状態であり、高周波トランスや平滑用インダクタの下側コアが、アルミ冷却ケースに埋没されており、効果的なコア冷却が可能となっている。



また、熱対策とコストダウンの関係を良く示した状況を図説するため、再度、図3.23の写真に戻る。通常はパワー半導体の冷却のために、左上部にある様な放熱絶縁シートをアルミ冷却ケースとパワー半導体の隙間に挿入してボルト留めする。さらに、その放熱効果を高めるため、パワー半導体と放熱絶縁シートの間に、シリコングリースを塗布することが一般的である。しかしながら、車両の量産時において、そのグリース塗布は工数の増大を意味する。今回、4代目プリウスが採用した絶縁DC-DCコンバータには前述の通りアクティブクランプ方式フォワードコンバータとなっている。この回路方式では、前述の通り、電流負担の大きいメインスイッチと、負担が比較的軽い補助スイッチから構成される。トヨタ自動車は、今回は負担の大きなメインスイッチ側のみにシリコングリースを塗布することとし、補助スイッチにおける熱対策を結果としてコストダウン化していることが見て取れる。
こういった小型化、低コスト化要求に対してにじり寄る様な技術確信により、結果として最終システムである車両の付加価値向上に大きな役割を演じている4代目PCUの、実際の役どころについて稿を改めて報告する。



【参考文献】
(1)トヨタ自動車ホームページ,(https://toyota.jp/)
(2)山本,自動車用48V電源システム 欧州勢の思惑と日本企業が目指すべき技術開発の方向性,サイエンス&テクノロジー株式会社,ISBN978-4-86428-143-0,2016年9月28日刊行.
(3)小澤,“新型プリウス向けDC-DCコンバータの熱設計,”テクノフロンティア2016技術シンポジウム,熱設計・対策技術シンポジウム資料,F6-2-1~F6-2-21,2016.




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